「現実」の素晴らしさを表現するための写真技法
ぼくは「フォトモ」や「ツギラマ」などという、一風変わった手法で写真を撮っている。でもまず理解して欲しいのは、これらの手法は「被写体の良さを引き出すためにある」ということだ。
被写体とはすなわち「現実世界」のことで、実はぼくは写真よりも現実世界が好きなのだ。
現実が好きなぼくはよく散歩をする。
散歩といっても気晴らしなどではなく、散歩を目的とした散歩のための散歩である。
これは「日常世界の探検」と言い換えても良い。
日常で探検なんてできるのか?と思われるだろうが、例えば自宅周辺であっても、自分が歩いたことのない道は意外に多いはずだ。
そうしたところにふと足を踏み入れると「近所なのに見たことのない風景に出会う」というフシギな体験ができる。
こうした視点を周辺地域にまで拡大すれば、歩いたことのない道が無数にあることに気付くだろう。
知らない路地を歩き角を曲がると、さらに知らない風景が広がる……このワクワクした気分が「日常世界の探検」の醍醐味なのだ。
しかしこうした感覚を、写真で表現するのはとても難しい。
単純に言うと、現実は立体なのに写真は平面であり、写真で表現できるリアリティはごく一面でしかない。
だからぼくは、自分が感じたリアリティーを何とかして写し取ろうと思い、フォトモやツギラマなどの手法を導入したのだ。
もちろんこれらの手法も「現実の全て」を表現できるわけではない。
しかしそうした前提があるからこそ、現実とのギャップを埋め合わせるための、さまざまな創意工夫が生まれてくる。
どうも現代日本では、現実や日常といったものは否定的に捉えられる風潮がある。
現実より夢や想像の世界が、日常より観光地や海外旅行が、現在より懐かしい過去の時代が、より素晴らしいと考えられている。
それは実にもったいないことで、身の周りの現実にあらためて目を向ければ、そこは新鮮な発見の宝庫となるのだ。
だから写真の初心者や、自分の写真に行き詰まりを感じている人は、ぜひとも自分の日常世界に目を向けていただきたい。
現実の素晴らしさを知れば、「それをどうやって写真で再現するか?」という思考につながり、そこからその人独自の「良い写真」が生まれてくるはずだと、ぼくは思う。
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初出:デジタル写真生活 Vol.2(ニューズ出版)
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