『帰ってきたファーブル』
日高敏隆さんの本、久々に読みましたがすごく面白かった・・・
この本は、学校で教わる生物がなぜつまらないかの理由が書かれています。
生物ははじめ博物学だったのが、それじゃ科学にならんということになった。
それで科学とは何か、というのは物理学の方法論を基本にしなければならないということになった。
しかし物理学の方法論、例えばデータを数値として抽出して比較することは、生物の実態とはかけ離れている。
だから生物学は、物理学とは違った研究方法を確立しなければいけなくて、それはやっぱり博物学だということです。
それでファーブルは科学以前の博物学者なので「帰ってきた」ワケなのです。
この本は1993年とちょっと古い本ですが、ぼくが最近影響を受けたポストモダン関連の本の内容と併せて考えると、色々と符合することがあって興味深いです。
研究の方法論を物理を範として統一すべき、というのはモダン思想です。
しかし、それは実体に会わないので、それぞれの分野で適切な方法論があるんじゃないですか?と思うのはポストモダン的状況といえます。
それと進化論ですね、ダーウィンの進化論はモダン思想によって一部拡大解釈され、とにかく「生き物は原始的で劣った状態から、高等な状態へ進化し人間に至るのだ」ということで、それは人間の社会も同じだということと思われてました。
人間の社会も、「宗教を信じる原始的で間違った社会から、より理性的で洗練された社会に進化するのだ」ということです。
でもそういう社会進化論は、レヴィ・ストロースを発端とする文化人類学によって否定されてしまいました。
土人の荒唐無稽な神話は西洋人から見ると迷信でしかないが、それなりに複雑な世界観を構築し、しかも現地の実社会のなかで合理的に機能し、それは西洋人が信じているものと「等価」であり、進化としての優劣はないのです。
同じように、地球上の生物は進化の度合いの序列で並んでいるわけではない、ということがこの本には書かれています。
生き物はそれぞれの「理論」に従って合理的に生きていて、それは人間のそれぞれの文明と同じことなわけです。
肝心なのは、生物をモダン思想で扱ったら「つまらなくなった」ということです。
それでモダン思想から離れたら、面白くなったわけです。
日高さんがこの本で問題にしているのは「面白いかどうか」でこれはかなり肝心なところだと思います。
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コメント
僕は、昔から生物が好きで生物学をやりたいと思っていたのですが、生物学と言うのがとてもつまらなく感じるようになって農学と言う道を選びました。生物学がつまらなくなったのはこうゆう事だったのでしょうか?日高先生が翻訳された”ソロモンの指輪”あのような世界が面白かったように思います。
投稿: OIKAWA | 2007年5月22日 (火) 11時29分
生き物を扱う授業が「博物」から「生物」に移行したのが戦中とのことで、日高さんはそのどちらも体験したそうです。
「博物」の教科書には桜の花や岩石や魚が載っていて面白かったけど、「生物」には魚の実験が載ってたと。
それは水温を上げるとえらの動く回数がどう変化するかという「数値」として取り出せるから、物理学並みに科学的とされたわけです。
でもそれは本当につまらないことで、ぼくらの世代はもちろん今もその風潮は続いてるようです。
投稿: 糸崎 | 2007年5月22日 (火) 11時53分
なんかチャットみたいですね。
昔の生物学者でパウル・カウンメラーという人に興味があります。彼は、ミュージシャンと言う側面を持つ学者なのですが、どうもこれが嫌われ者の一因だったようです。まあそれは関係ないのですが。彼は、両性類や爬虫類の飼育が得意で天才的だったらしいです。その特技を利用し累代飼育をおこない獲得形質についての論文を書くことになります。その中の一つにサンバガエルの論文があります。この累代飼育があまりにも難しいため誰一人として追試が出来ずパウルは、非難を浴びる事になるのです。未だにその真偽はわかりません(と思うのですが)。
何がいいたいかわからなくなってきましたが
このような、特技が生かせる生物学に憧れます。
投稿: OIKAWA | 2007年5月22日 (火) 12時44分
パウル・カウンメラー、グーグルでは見付かりませんでした・・・
ミュージシャン兼、生物学者なのはステキです。
昔の戦隊モノで、悪の科学者が遺伝子シンセサイザーを弾きながら怪人を作るというのがありましたがw
動物の飼育が天才的に上手いというのは、科学者じゃなくて、技術者の資質でしょうか。
博物学者だったら音楽でも飼育でも、どんな資質でも持っていたほうが面白い研究は出来るでしょうが、科学は純粋化、分業化に向かいます。
OIKAWAさんは間違いなく博物学の資質はあるでしょうw
投稿: 糸崎 | 2007年5月22日 (火) 13時19分
どうも間違えていたようで、パウル・カンメラーだったようです。キーワードは、サンバガエルです。当時は、学者が音楽をやるのは良かったけど、ミュージシャンが科学するのはいけなかったらしいです。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8D%E3%82%AA%E3%83%BB%E3%83%A9%E3%83%9E%E3%83%AB%E3%82%AD%E3%82%BA%E3%83%A0
投稿: OIKAWA | 2007年5月22日 (火) 13時47分