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2007年8月19日 (日)

橋本治『二十世紀』

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その昔、世間を騒がせてたオウム真理教が「日本の教科書にはウソばかり書いてある」というようなことを言って、ぼくは「他はともかく、それだけは本当だな」と思いました。
当時ぼくは生物関連や思想関連の入門書をいろいろ読み始めて、「勉強することの面白さ」を始めて実感してたのでした(その後飽きてしばらく中断したのですが)。
それまでの自分にとって、勉強とは他人から無理やり押し付けられる、なんの役に立つか分からないような、つまらなく苦痛なものでしかありませんでした。
それが大学を卒業してしばらくしたころ、ふと思い立って自分の興味に基づいて自主的に勉強し始めると、これが面白いし役にも立つのです。
つまり「勉強とは本来面白くて役に立つもの」ということをようやく理解したのですが、そうなると学校の勉強は「本来とは異なる、間違ったもの」ということになってしまいます。
それであらためて確認のために中学の理科の参考書をパラパラとめくると、あまりのつまらなさに愕然としてしまいました。
それはまるで、わざと興味がそれるようにつまらなく書いているとしか思えないようなもので、いくら内容が正しくても、学問のあり方としては間違っているわけで、それで「教科書にはウソばかり書いてある」という実感になるのです。

そもそも学校の勉強というものは実用ではなくて受験用のものであり、受験というのは一定のルールに基づいて点数を競うゲームのようなものです。
だから、学校の勉強内容は受験というゲームのルールを構成するための要素=記号でしかなく、そんな特殊な記号の羅列を覚えても、学校の外部では何の役にも立たないのです。
まぁ、こんなことは今さらぼくが言うまでもなく、子供の頃から気づいている人はいるかもしれないし、要領が良くて頭のキャパシティに余裕がある子なら「無意味な勉強」はそれこそゲーム感覚でホイホイこなし、とりあえず良い大学に行って、あとは好き勝手に自由にしてるのかもしれません。
問題は、ぼくのように要領も頭も悪い子供で、そういう子は素直に大人の陰謀に騙され、ずいぶんと損をしてしまうのです。

で、そのような理由でぼくは学校の「歴史」が好きになれず、そのことが今に至るまで影響しているのです。
そう考えると、この橋本治さんの『二十世紀』は最高の歴史教科書のひとつと言えます。
橋本治さんはとにかく、難しくて複雑なことを簡単な概念に置き換えて説明するのが非常に上手いです。
だから読んでいる方の頭にも、内容がどんどん入っていきます。

ただし、この「分かりやすい」というのは曲者で、警戒しなくてはなりません。
どこを警戒しなくてはいけないかというと「それが唯一正しい解釈だ、と受け取ってはならない」ということです。
そもそも原理的に「唯一の正しい歴史」というのはありえません。
歴史というのは、過去に起きた無数の出来事の中から、その人にとって都合の良い出来事のみを選び出し、その人の都合の良いようにストーリーを組み立てたものでしかありません。
歴史というのは、主観によらない客観的な記述のようにも思われてますが、出来事が無数にあり、因果関係も無数に設定できる以上、歴史は誰かの主観的な記述にしかなりえないのです。

それで『二十世紀』の下巻の後書きにもあるように、この本は著者の徹底的な主観によって書かれています。
この本は「意外な歴史の裏側」や「大胆な歴史の解釈」が示されており眼から鱗が落ちる思いですが、それを素直に「事実」と受け取ってしまっては、この本の趣旨から外れてしまいます。
いや別にウソが書いてあるわけじゃないでしょうが、ウソかどうかにかかわらず「唯一の正しい歴史」にこだわらず、多視点から柔軟に解釈するのが歴史の醍醐味であり、その「一例」がこの本に示されているのです。
歴史というのは、各自がそれぞれ自分の人生にフィットした形で、編み上げる(解釈する)しかなく、他人の書いた歴史はそのための参考書なのです。

そう考えると、学校の教科書には頭ごなしに「正しいとされる歴史」が書いてあり、その意味では「ウソ」なのです。
歴史でウソになりようがないのは、年号や地名や人物名といった「部品」のみで、それをどういうストーリに仕立てて歴史を語るかは「参考例のひとつ」として教科書に載せるのが良いのかもしれません。
いや、ぼくは教育の専門家じゃないし、嫌な学校へもう通う必要がないので知りませんが(笑)

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