「ポストモダン」はオヤジ用語
昨日、水道橋のアップフィールドギャラリーで開催されている企画展を見に行ったら、出品作家のKさんのほか数人の写真家が集ったので、「じゃ、軽くのみに行きますか」ということになった。
その席でYさん(30代)に、またしても、
「やっぱしモダンとかポストモダンとか、わかんないっすよぅ」
と言われてしまった。
で、いろいろ話してぼくが「分かった」のは、Yさん自身が「モダン」とか「ポストモダン」とか言う概念を「必要としていない」ということである。
概念というものを「考える道具」だとすれば、自分が必要としない概念について、いくら説明されても分からないのは当たり前である。
ではYさんがなぜ「ポストモダン」という概念を必要としないのかといえば、実は彼はもうすでに「考える道具」としての「ポストモダン」を手に入れてしまっているからである。
例えばYさんは自分の写真について、
「何を狙って撮ったがハッキリしないけど、そのぶん見る人にいろいろな解釈の余地を与える写真を目指してます」
というように言っている。
これはまさしく「ポストモダンアート」のあり方であり、彼は何の本も読まずともそのことを既に知っているのである。
一方ぼくは、こうしたポストモダン的なアートのあり方を本を読んで知ったので、以上の言葉がごく自然に彼の口から出てきたので驚いてしまった。
いやYさんだけではなく、ぼくはこれまで他の写真家や美術家からも同じようなことを聞いている。
それで改めて思ったのは、現代という時代は「ポストモダン」的な価値観や考え方が、すっかり常識化していたんだなぁ、ということである。
「自分の意図を明確にせず、観客に解釈の余地を与える表現目指す」と言うのはアートの世界ではもはや常識化しているのだ。
世間で常識化していることは、改めて本を読むまでも無く、周囲の人間からなんとなく学び取ることができる。
そのように身に付けた「常識」について、改めて概念化して意識することは、普通に生きている限り意味はない。
「ポストモダン」的思考や感性を「体得した」人間に対し、「ポストモダン」についての説明は不要なのである。
一方「ポストモダン」についての説明が必要なのは、その概念を体得していない、ぼく自身のほうなのだ。
時代はとっくに「ポストモダン」に移行しているのに、ぼくはその時代の価値観や感性を学び損ねて、どういうわけか古い時代の「モダニズム」に囚われてしまっていた。
だからぼくは自分の状況を把握するため「モダニズム」とそれに対置する「ポストモダン」の概念を知る必要があったのだ。
つまりこれは時代遅れのオヤジの感覚なのである。
自分が「時代遅れ」であることを自覚したオヤジだからこそ、古い時代の「モダニズム」と新しい時代の「ポストモダン」の両方が対象化されるのだ。
逆に言えば、時代に適応した若者にとって「モダニズム」と「ポストモダン」という時代区分そのものが無意味である。
もちろんそれが必要な場合もあるだろうが、それは何か特別な場合に限るのであり、普通に生きている限り意識する必要は無いだろう。
これを裏付けるように、その場にいたもう一人の写真家Fさん(30代)に、
「糸崎さん、今頃ポストモダンとか言ってるとヤバイっすよぅ」
「ポストモダンなんてもうとっくに終わっていてますよぅ」
などと言われてしまった。
これにはちょっとムッとしてしまったが、こういう挑発的な物言いは彼の常套手段なので真に受けてはいけない(笑)
冷静に考えると彼の意見は一方で正しく、一方では正しくない。
「ポストモダンが終わった」という彼の言葉を好意的に解釈すれば、「ポストモダンをことさら話題にする時代は、もう終わりつつあるかもしれない」ということになり、そういう彼の実感を考えれば、まぁ正しいかなと思う。
ただし、思想的な時代区分としての「ポストモダン」は今も続いていて、終わってなどはいない。
その証拠に、高田明典や、宮台真司や、東浩紀などの多くの知識人が「ポストモダン」をテーマにした著作を著している。
ただ、そのような「ポストモダン」の解説書を読み、それについて考える必要があるのは「ポストモダン」を常識として学び損ねたオヤジ世代だろう。
つまり「ポストモダン」は若い人にはもはや不要の「オヤジ用語」なのである。
因みにこのとき同席していた、企画展出品作家のSさんはぼくより3つ年上の40代だが、やはり「ポストモダンについてはどうでもいい」というふうな感じだった。
つまり少なくともアートの分野に限っては、ぼくが物心つくぐらいの時代には「モダンアート」から「ポストモダンアート」に大方移行していたのだ。
ぼくは恐らく同世代でも例外的に「時代遅れ」であり、そのことを改めて実感したのだった。
(*写真は本文と関係ありません。 RICOH CX1)
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