高松市美術館での展示の準備・ボツ原稿
高松市美術館の展示の準備ですが、いろいろ苦労してます。
以下、展示のための原稿ですが、長すぎてボツにしました。
それに、どれくらいわかりやすく書いて、どれくらい不親切にするかの頃合いも、今ひとつ判断できません。
わかりやすくすると、読む人の想像の余地を奪ってしまうので、適当に不親切にするのもテクニックのようで、デュシャンもそれを多用しているのです。
まぁ、いろいろ悩んだりするのも楽しいのですが、締め切りがあるのでいい加減なところで切り上げなくてはいけません。
『イメージの連鎖』
私はあるとき、自宅のある東京都国分寺市の商店街で、不思議な帽子掛があることに気づいた。その帽子掛けは、帽子が掛けられない状態のまま、洋品屋の店先にずっと置かれたままだった。何より驚いたのは、その佇まいが、マルセル・デュシャンの代表的なレディ・メイド≪瓶乾燥器≫にそっくりなことだった。もちろんその帽子掛けはレディ・メイドなどではなく、単に「似ている」だけにすぎない。しかし私は、この帽子掛けをまるでレディ・メイド=芸術のように鑑賞してしまうのだ。
この状況を自己分析した結果、私は自分の脳内で「イメージの連鎖」が起きていることに気づいた。「似たもの」というイメージが連鎖することで、本来的には「別カテゴリー」の二つのものが、「同カテゴリー」として認識されるのである。つまり≪瓶乾燥器≫イメージのが「帽子掛け」のイメージと連鎖することで、≪瓶乾燥器≫に含まれる「芸術としての意味内容」が、「帽子掛け」に転移している。と同時に、本来的な「帽子掛けとしての意味内容」は、完全に意識外に追い出されているのだ。
別の例を挙げると、私は江戸川区小岩の路地裏でレディ・メイド≪自転車の車輪≫にそっくりの「自転車の車輪」を発見した。デュシャンの≪自転車の車輪≫は腰掛けの上にのせられているが、私が発見した「自転車の車輪」はポストの上にのせられている。これも「イメージの連鎖」によって、自分にとって芸術と同じような鑑賞の対象となる。
このように特定のモデルとなる作品がなくとも、私は芸術からの「イメージの連鎖」によって、路上のありとあらゆるものをまるで芸術のように鑑賞して歩く。芸術作品とは詰まるとこと「人の手による造形物」であり、「芸術のイメージ」は路上のあらゆる造形物と連鎖する。そのように路上で見出された「芸術に似たもの」はレディ・メイドではなく、もちろん私の作品でもなく、あらゆる一人称的な芸術表現とは異なっている。そこで私はこれらを「非人称芸術」と呼ぶことにした。「非人称芸術」は、言葉の操作による創造行為の産物でもある。言葉の操作による創造は、デュシャンの作品で多用されている。たとえばデュシャンはSAPOLIN ENAMEL(サポラン エナメル)の広告の綴りに加筆を施しAPOLINELE ENAMELED(エナメルを塗られたアポリネール)と改竄した。その結果、ブリキのベットが詩人(アポリネール)に変身してしまう。デュシャンは言葉の「音」の連鎖を利用し、「音」が本来指し示すべき意味内容とのズレを生じさせている。それがデュシャンの「手で作ること」によらない創造行為となる。
一方、私は水戸市の駐車場の奥で「アポリネール」にそっくりの「キリン」を発見した。この「キリン」は「イメージの連鎖」に伴う言葉の操作によって見出された「非人称芸術」に他ならない。非人称芸術は、鑑賞者による言葉の操作がなければ存在し得ない。だから原理的に、あらゆる人工物は「非人称芸術」の「可能態」なのである。結局のところ、「非人称芸術」とは「芸術に似たもの」に過ぎないのだが、それが「芸術以上に芸術的」と思えるのかどうかは、まさに「人による」のだろう。
糸崎公朗
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