報告とお詫び
報告が非常に遅れましたが、さる7月11日に水道橋のアップフィールドギャラリーで開催された、企画展「ながめる・まなざす」のトークイベントについてです。
ぼくはこのイベントで、写真家の相馬泰さんと共にパネラーを務めさせていただきました。
ぼくと相馬さんのしゃべりを観客が一方的に聞くのではなく、お客さんみんなで写真展や、写真についての意見交換をしてもらおうという趣旨のイベントでした(お題はいちおう「風景に関わる写真について」ということで設定されてました)。
ぼくとしてはもちろん、ギャラリーにとっても初めて開催したことのない形式のイベントで、はじめはみんなどう話して良いのか戸惑っていましたが、徐々に意見が出はじめ、最終的にはけっこう盛り上がって「まだ話し足りない」と思えるところで終了しました。
その意味でこのイベントは成功だったし、ぼくもパネラーとして力不足ながら少しはお役に立てたのではないかと安心しました。
が、このイベントについて、ぼくは一つ謝罪しなくてはなりません。
皆さんにと言うよりも、写真家の丸田祥三さんと、評論家の切通理作さんに対しての謝罪です。
実は、ぼくはtwitterで丸田祥三さんと切通理作さんに、このトークイベントで「写真盗作問題」について取り上げることを約束したのですが、結局この問題はトークで扱うことを中止してしまいました。
はじめにお断りしておくと、これはどこからか「圧力」があったためではなく、パネラーとしてのぼく自身の判断によるものです。
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ことの経緯を説明しますと、まず「盗作問題」についてご存じない方は以下のサイトをご覧下さい。
http://blogs.yahoo.co.jp/
こちらの動画も参考になります。
http://www.ustream.tv/recorded/8837635
http://www.ustream.tv/recorded/8838698
それでこの問題に関してtwitterに「ある写真家」が以下の内容の投稿をしました。
丸田氏ですが、まぁぶっちゃけ認められたいんだろうなぁと、ほめて欲しいんだろうなぁと、それも「写真の人たちに」なんだろうなぁと、そんなことを考えました。
それに対し、切通理作さんは以下のように反論されました。
盗作による不利益を被っている側に対して、こういうことを言うのは明確な精神攻撃だと思う。
自分の表現のオリジナリティを認められたいと思うのは当然であっ て、それを意地汚い欲望のように、丸田氏本人も目にする可能性のあるところで言う・・・・これが仮にも写真家を名乗る者のやることでしょうか。このこと一つ見ても写真界ってどうよ?って思います。
で、ぼくとしてはこの写真家の言葉は相当にひどいし、臆面もなくそれが書けるのは、悪い人じゃないけどちょっと困った人だろうな…と想像しました。
しかし、ぼくがここで問題にしたのはむしろ切通さんの
このこと一つ見ても写真界ってどうよ?って思います。
という捉え方でした。
これは「その写真家がヘンなだけ」という特殊ケースであって、写真界の人間が一般にこんなにヘンであるわけもなく、これは明らかに言い過ぎたと思ったのです。
そのことを切通さんに伝えると、以下の返信をいただきました。
@itozaki あなたは写真界の一人として小林伸一郎の盗作行為によって同じ写真家の丸田祥三氏が損失を被っているということについて、自浄努力を試みたというのですか? 僕はこのこと一つで写真界というものを信用しきれません。このこと一つを解決できない写真界に誇りを持てますか?
@risakuなるほど、
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で、このことをパネラーの相方の相馬さんに報告したのですが、「トークのテーマに話をつなげられればいいんじゃない?」と言っていただきました。
ぼくとしては、写真にかかわらず創作行為の基本は「コピー」にあると思うし、自分でも他の写真家の作風を意図的にコピーした「反ー反写真」シリーズも撮っているので、そのあたりから話が広げられるだろうと思っていたのです。
ところが、このことをトークに参加予定の別の某写真家氏に報告したところ、「トークでは盗作問題は取り上げないで欲しい」と強くお願いされてしまいました。
念のためですが、彼は某組織の回し者ではなくw、個人の判断による理由を述べていただきました。
それをぼくの記憶にも基づいてまとめると、以下のようになります。
「盗作問題」は確かに自分も酷いと思う。
しかし自分はあくまで、企画展に関連した写真の話がしたい。
以前、別のトークで話題がそれて、肝心の写真についての話がぜんぜん聞けなかったことがあってイライラしたことがあったけど、今回はそんな状態になって欲しくない。
「盗作問題」は企画展に直接関係ない上に、盛り上がって長引きそうな話題なので、今回は取り上げて欲しくない。そもそも「盗作問題」は写真関係者のあいだに十分知れ渡っているので、ここで取り上げる必然はないし、その意味での「自浄作用」は働いている。
だいたいにおいて、自分は「写真界」に所属しているなどと意識してないし、少なくとも丸太祥三氏や小林伸一郎氏と「同じ業界」の人間だとは思っていない。
それを「写真界」などと言って、十把一絡げにして欲しくない。
もちろん、自分は「盗作問題」を完全に他人事だとは思っておらず、それなりに関心を払って情報収集をし、時には意見交換もする。
だが少なくとも今回のトークで取り上げるべき問題ではないし、そうして欲しくない。
以上、例によってぼくの記憶の精度は当てにならないですが、だいたいそんなことを言われ、結局ぼくも「それもそうだ」と思って説得されてしまったわけです。
ぼくが彼の話で納得してしまったポイントは、「写真界」というカテゴライズについてです。
確かに、ぼくにしても「写真界」のような顔をしているだけで、実際は「外れ者」でしかないし、そう言う扱いを受けてます。
ぼくはむしろ「出版界」というカテゴリーで、丸田さんや切通さんとは同業者と言えますが、そうなると出版に関係のない写真家は、この問題に無関係と言うことになります。
そもそもこの「盗作問題」は出版に絡んで発生したもので、出版に関係のない写真家にとっては「別の業界」の出来事でしかない、と解釈することができます。
もちろん、そうは言っても多くの写真家が「盗作問題」について人並み以上に関心を寄せていることは確かです。
そう考えると、あらためて切通さんの
このこと一つ見ても写真界ってどうよ?って思います。
にはじまる意見はいろいろな意味で「言い過ぎ」であることが思い起こされてしまうのです。
それでもぼくは、トークの話の流れによっては「盗作問題」を取り上げるつもりではいたのですが、しかし自分から積極的その話題を振ることもなく、トークはそのまま終了となりました。
と言うことで、丸田祥三さんと切通理作さんに対しては、約束を果たすことができたくて大変申し訳ありませんでした。
また、それについての報告が非常に遅れたことも、謝罪いたします。
それで、切通さんの「言い過ぎ」についてですが、これは丸田さんと共にお二人とも大変な思いをされているはずなので、多少の言い過ぎは感情的に仕方のないものとして、差し引いて考えおります。
また、切通さんがぼくの指摘に対して「言い過ぎではない」とおっしゃるのであれば、それは反省しながら自分で考えてみることにします。
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コメント
すでに提訴されていることで司法判断に委ねられているわけですから、当事者でない立場では共感するものがあったとしても発言を差し控えるのが当然だと思います。
私はフランスの著作権のように模倣であってもパロディーになっていればOKだと思っていますが、そのためには模倣元とは違う視点で捉えているプラスαが表現されていることが認められる必要があります。
それが判断できるだけの文化が日本にあるのかどうか、、、司法がどう判断するのか興味があります。
投稿: 遊星人 | 2010年8月17日 (火) 21時59分
ハタから見ると、論点ずらしてばかりの水掛論ですね、丸田さんの話しも盗作かどうかではなく、だれかわからないやつにひどい脅迫をされた事の方が重要なんでしょうか、分けて話さないととおもいます。
投稿: schlegel | 2010年8月19日 (木) 11時48分
>遊星人さん
>すでに提訴されていることで司法判断に委ねられているわけですから、当事者でない立場では共感するものがあったとしても発言を差し控えるのが当然だと思います。
司法の判断とは別に、われわれには言論の自由が許されています。
ですから司法の判断がどうであれ、それを批判することを含めたいかなる言論も差し控える理由はありません。
トークイベントで盗作問題を扱わなかったのは、他に優先すべき話題があったために過ぎません。
盗作問題はブログでもツイッターでも取り上げることができますが、企画展の話題はそのトークでしか扱えません。
>schlegelさん
>ハタから見ると、論点ずらしてばかりの水掛論ですね、丸田さんの話しも盗作かどうかではなく、だれかわからないやつにひどい脅迫をされた事の方が重要なんでしょうか、分けて話さないととおもいます。
リンクした動画を見ると、丸田さんの口べたのため論点がずれたように感じるかも知れませんが、あとの二人はきちんとフォトーしてくれているように思えます。
また、こちらのテレビのインタビューでの丸田さんは、キッチリと説明してくれています。
http://www.youtube.com/watch?v=RvSKJ83cP1M
http://www.youtube.com/watch?v=1ofOhH73FiE&feature=related
この「盗作問題」は、単に写真が似ていたとか、同じ被写体を撮ったとか、そういったこと以上に悪質な要素が含まれています。
つまり「だれかわからないやつにひどい脅迫をされた事」も問題の一環となるような、別次元の悪質さです。
加害者は常識では考えられないひどいことを仕掛けてきて、だから被害者はかえって誰にも信じてもらえず・・・ということですね。
投稿: itozaki | 2010年8月20日 (金) 20時40分
Ustreamの映像は見ていなかったのですが、昨日最初の半分くらい見ました。
最初のコメントが、なぜ、動画を見ての感想と思われたのかもわかったように思います。
「盗作」については事実関係がはっきりしているようですが、
やはり不必要に問題を難しくされている様で残念な印象を受けました。
投稿: schlegel | 2010年8月22日 (日) 07時13分
>schlegel さん
>Ustreamの映像は見ていなかったのですが、昨日最初の半分くらい見ました。
ある意味、後半のメッセージは非常にシンプルで、力強いですね・・・裁判はともかく世間に与える影響は大きいでしょう。
>やはり不必要に問題を難しくされている様で残念な印象を受けました。
それをいうならこの記事がそうでした。
単純に、トークイベントでは他に話したい話題があり、盗作問題について取り上げることができなかった、と言うだけのことですから。
どうもいろいろ余計なことを書きすぎたと反省しています。
投稿: itozaki | 2010年8月22日 (日) 11時39分
>それをいうならこの記事がそうでした。
それをいうなら僕のコメントも余計でしたね、
枡野さんと町山さんの画像
http://www.ustream.tv/recorded/8398519
も部分的に見て、応援されている方の気持ちがだいぶよく分かりました。
理屈を言ってどんどん嫌われる、とか、自分もありますし(笑)
投稿: schlegel | 2010年8月22日 (日) 12時58分
>枡野さんと町山さんの画像
時間ないのでまだちょっとしか見てないですが、いろんな意味で勇気をもらえるお話ですねw
投稿: itozaki | 2010年8月23日 (月) 20時51分
私もちょこっと見ました。枡野さんっていいなあ(笑)
投稿: 遊星人 | 2010年8月23日 (月) 21時04分