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2011年1月 6日 (木)

プラトンのパイドン

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年末から正月にかけてプラトンの『パイドン』を読んだのだが、もっと早く読んでいればと後悔するくらい素晴らしかった。
写真家の友人に「ギリシア哲学は意外に読みやすくて面白い」と言われ気になっていたのだが、まさに予想を上回るインパクトである(笑)

書名のパイドンとはソクラテスの弟子で、この本の語り部。
アテナイから「危険思想」の罪により死刑判決を受けたプラトンが、死刑の前日、弟子たちに囲まれて「魂の不滅」について哲学的な討論する内容が記されている。

まず感動してしまうのは、自らの死を目前にして淡々と哲学を語るソクラテスの態度。
それは「魂の不滅」を確信し、死の恐怖を乗り越えているからなのだが、それは単なる迷信ではなく、あくまで哲学的考察を精緻に重ねた上での「確信」なのだ。

つまりソクラテスは「イメージとしての死の恐怖」に囚われることを戒め、あくまで「理論的整合性」によってのみ思考するその態度を示し、ただそれだけのこと為に自らの命を懸けている。
そしてまさにこれこそが、哲学をはじめとする全ての学問の基本的方法論であり、気概であると思われるのだ。

魂の不滅を証明してみせるソクラテスに、対し弟子達は次々に「反論」を試みる。
つまり自ら納得して死に臨む師匠に対し「あなたの理論は間違いで、だからその死も虚しい」と説得するのである。
これは明らかに「世間体」の倫理観に反している。

世間体で考えるならば(ソクラテスの気が変わっても死刑が撤回されない以上)本人が「魂の不滅」を確信してるならそのまま信じさせてやるのが人情である。
だがもし弟子達がその意味でお追随したのなら、それは哲学的には師への裏切りであり、ソクラテスはさぞかし失望するだろう。

つまり、まず哲学とは一人で行うことができず(その整合性を検証するために)他者との「対話」の中で営まれる。
そして、そのような哲学の営みは世間体から隔絶した外部に存在する。
このことも学問全般の基礎であり、もちろん芸術にも通じている。

『パイドン』には物事を知的に考える上で重要かつ基礎的な「方法論」が、かなり明確に示されている。
確かに、この本に書かれる「魂の不滅」をはじめとする理論そのものは、現代の水準からは不十分に思える。
だが、これは方法論を示すための言わば「例題」なのである。

『パイドン』においてプラトンは、ソクラテスを通じて「魂の不滅」を説き「不滅のイデア」を説いているが、実のところ真に不滅だったのはプラトンの著作であり、そこに示された「思考の方法論」そのものなのである。

もし、芸術の意味が「芸術とは何か」という問いであるならば、まず「思考の方法論」の基礎中の基礎であるプラトンの著作を読むのが一番手っ取り早いのである。
難易度はまさに入門書レベルであり、ボリュームも新書並であり、しかし内容は2400年余りの歴史に耐えるだけの「重み」がある。

哲学をカメラに例えて考えると、昔の金属製機械式カメラは分解するとギアやカムやスプリングが見えて、内部機構のカラクリが素人目にも理解できる。
つまりカメラ設計者の思考や工夫が、素人でも分かるレベルで示されているのだ。

いっぽう現代のデジカメを分解すると、中に複雑なプリント基板が見えるが、具体的にどんな原理で作動しているのか、素人目にはさっぱりわからない。
デジカメの作動には電子基盤以外にプログラムも関わっており、専門の技術者でなければその仕組みや工夫を理解することはできない。

哲学もカメラと同じで(時間のスパンはだいぶ異なるが)、初期の哲学は見事でありながら誰にでも理解しやすい。
それに対して現代の哲学は素人が読むとチンプンカンプンで、専門家にとっても難解なものが少なくない、というくらいに複雑化している。

難解な哲学や現代思想は、原著は読めなくとも適切な「入門書」を読むことでその概念の一部を理解し利用することができる。
しかし古代ギリシア哲学は原著自体が入門書レベルで書かれているため、 誰でも人類最高の叡智に直接(翻訳だが)触れることができる。
こんなことならもっと早く知っておけば良かったと思うが、今だからこそその凄さが分かるのかも知れない(笑)

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