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2012年2月20日 (月)

「路上ネイチャー」から見た放射能問題・自然のリテラシーから情報リテラシーへ

ぼくは月刊誌『子供の科学』に連載してるのだが、これとは別に「3.11から1年、と言うテーマで何か書かせて欲しい。」と編集部にお願いしたところ、「では糸崎さんの書きたいことを、企画書にして下さい。」と言われたので、とりあえず下書きのつもりで文章を書き提出した。

で、実際の「子供の科学4月号」(3月10日発売)には、「子供からの質問に答える」というかたちで400字ほどのテキストを依頼され、既に入稿を終えた。
提出した企画書から文字数は大幅に減ったが、その分圧縮率も高く、それなりに気に入った文章にはなった。

しかしせっかくなので、『子供の科学』には絶対に載らない長文の企画書を、ここに掲載してみる。

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「路上ネイチャー」から見た放射能問題・自然のリテラシーから情報リテラシーへ

ぼくは人間が住む都市環境に生息する生き物を観察し続けています。
しかし3.11の原発事故によって、日本の環境は放射能に汚染されてしまいました。
それ以来ぼくは、環境を考える視点の延長で、自分なりに放射能汚染について考えてきました。
ぼくは放射能の専門家ではありません。
しかし放射能は人体に悪影響を与えると言われています。
だから自分なりに放射能について勉強しなければ、自分の健康を守り、これからの日本を守ることは出来ないだろうと思ったのです。

原発事故による放射能汚染は日本人にとっても初めての体験です。
だからぼくだけでなく、大人の大半はそれについての知識が無く、ゼロから勉強を始めるしかありません。
逆に言えば、子供も放射能について勉強すれば、大人と同等の知識を身に付けることが出来るかもしれません。

ところが実は、放射能の危険性は科学的に解明されていないことが多く、専門家でも意見が分かれています。
つまりある専門家が「非常に危険です」と言っているのに対し、別の専門家は「それほどの心配はありません」と言っているように、意見がさまざまなのです。
だからテレビ、新聞、雑誌、書籍、インターネットなどには、さまざまに異なる情報や意見があふれています。
放射能の危険を煽る情報は「デマ」だという意見から、そのような情報こそ「安全デマ」だという意見まで、さまざまです。
そのようなときに大事なのは、自分なりに情報を集め、自分なりの考えを組み立てる能力です。
また情報を示す言葉の表面に囚われず、その裏の意味を読み取って解釈する力も必要です。
このような能力を一般的に、情報のリテラシー(読解力)と言います。

そもそもリテラシーは、自然観察の基本でもあります。
虫や鳥や植物は何も言いませんから、人間がその意味を読み取って解釈するのが自然観察です。
このとき大切なのは、例えば目の前のチョウを見るだけではなく、チョウが蜜を吸う花や、その花が咲いている環境も含めて観察することです。
もちろんチョウの種類を図鑑で調べて、その生態などを学ぶことも必要です。
そのような観察や勉強を積み重ねることで、自然についてのリテラシーが身に付くのです。
一方、世の中にはマスコミやインターネットを通じてさまざまな情報があふれ、その様子は自然の森のようにごちゃごちゃとしています。
ですから自然観察についてと同じように、情報のリテラシーが必要になるのです。

さて、放射能の情報について、どのようにリテラシーを身に付ければいいのか?ぼくなりの方法を紹介します。
ぼくは原発事故直後「放射能は人体に害があって怖い」と何となく感じていました。
こそでまず、書店やインターネットなどで調べ、自分が信用できそうだと思う「放射能の専門家」を探しました。
しかし自分が納得できる意見だけ集めても、情報が偏ってしまいます。
これは例えば自分が好きなチョウだけを見ていても、自然のリテラシーが身に付かないことと同じです。
だからぼくは、放射能について「自分は納得できない」と思えるような専門家の意見も、あえて知るように心掛けました。
また、ぼくと同じ一般の人々はどう思っているのか?を知るために、さまざまな友達と意見や情報の交換をしました。
この場合も自分の賛同意見ばかり聞くのではなく、人によってさまざまに異なる考えがあることを知るのが重要です。

例えば現在、多くの人が心配している問題のひとつが、放射能の「内部被曝」です。
放射能汚染された食品を食べると、放射能が人体内部に蓄積して内部被曝し、特に子供が癌にかかりやすくなると言われています。
しかし内部被曝はそれほど恐ろしいものではなく、「どの食品に放射能が含まれているのか?」に神経質になりすぎて、子供の健康をかえって損ねることの方が問題だ、と指摘する意見もあります。
このように異なる意見のどちらにも、それなりに納得できる根拠があり、それを知ることが大事なのです。

もう一つ、ぼくは原発事故のあと、放射線を測定するガイガーカウンターを買いました。
放射能が発する放射線は、目に見えないところが不安だったので、自分でそれを測定したかったのです。
ぼくは自分が住む関東各地、事故現場に近い福島市、遠く離れた関西などいろいろな場所で放射線測定しました。
その結果、現在の日本は場所によって放射線量が大きく異なり、放射能汚染が確かにあることが分かりました。
しかしそのような放射線測定値が、実際どれだけの危険度を示しているのか?それも専門家によって意見が分かれるのです。
だからこれについても自分なりに勉強し、判断する必要があるのです。

このように、ぼくはさまざまに異なる見解や知識を知り、ガイガーカウンターの数値も参考にしながら、自分なりの情報リテラシーを身に付けてきました。
もちろん、放射能対策についての「正解」を見出すことは簡単ではありません。
でもリテラシーを身に付ければ、より正解に近く、自分でも納得できる対処法が見つかるようになるのです。
これに対し、何も調べずにただ「何となくそう思うから」と言う判断を繰り返すと、情報に取り残されたり、情報に振り回されたりするのです。

実は学校の勉強は、キチンとすれば自然とリテラシーが身に付くように出来ています。
そのために国語、算数、理科、社会などさまざまに異なる分野の勉強をするのです。
特定の偏った知識だけでなく、さまざまに異なる分野の知識を組み合わせることで、情報リテラシーは発揮されます。
3.11に起きた東日本大震災と大津波、それに伴う原発事故に見舞われた日本は、大変な状況に置かれていると言えます。
だからこそ勉強して自分や家族の健康を守り、日本の未来のために役立てる必要があるのです。
別の見方をすれば、「なぜ勉強するのか?」の目的がハッキリし、勉強のしがいのある時代になったと言うことも出来ます。
その意味で、日本の未来は大変に明るいとも言えるのです。
勉強をしてリテラシーを身に付けることは、大人のぼくでも大変なことですが、読者のみなさんと一緒にがんばれればと思います。

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